私は、2011年に名古屋市立大学精神医学教室の教授を拝命し、再任審査を受け、現在二期目を務めさせていただいております。赴任当初から職責に対する自身の気持ちは全く変わっておりませんが、ここにあらためてご挨拶させていただきます。
歴史をひもときますと、名古屋市立大学病院精神科は1943年の講座開設以来75年を超える伝統を誇り、臨床から研究に至る幅広い領域において精神医学の発展に大きな功績を残してきたと自負しています。中でも精神病理学、神経心理学および実証的根拠に基づく精神医学の領域においては、数多くの有為な人材を輩出し、現在もわが国の精神医療を牽引する存在として、幅広い領域で活躍しています。加えて、現在は、様々な精神疾患、精神症状に対する効果が実証されている認知行動療法をはじめとした精神療法の実践的治療学、コンサルテーション・リエゾン精神医学、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、緩和ケア、児童思春期精神医学、てんかん、老年精神医学などの領域での人材育成が目覚しく、これら領域でもわが国有数の人材育成施設となっています。
次に、私たちの教育理念、研修体制、診療、研究、教室運営についての抱負を述べさせて頂きます。
明智龍男 Tatsuo Akechi
History
私たち大学のスタッフは、皆、教育と臨床が大好きです(もちろん研究も!)。全員が、大学のミッションは教育にあり、という理念を共有しています。ですので、大学病院にありがちな、常に研究を優先し、教育や臨床をおろそかにする姿勢は絶対にありません。ですので、皆さんにベストな教育を提供することを約束いたします。嬉しいことに、名市大でトレーニングを受けた医師は、どこに行ってもみなさんにお褒めをいただいております。
大学内の教育プログラムについては、熱心なスタッフが毎年専攻医や大学院生と相談しながら、臨床教育、研究教育の方法を毎年ブラッシュアップしております。提示された難しい臨床的な課題を、専攻医と指導医が対等に混じり合ったスモールグループで、診断をフォーミュレーションしながら解決方法を探っていく全員参加型の臨床疑問ケースカンファレンスなど日々の臨床に役立つカンファレンスが盛りだくさんです。もちろん、専攻医向けの基礎から応用まで含んだクルズスや同門会全体に対しての学外講師による専門領域の講義や講演も充実しています。また、大学病院のみでは精神科医療に十分な症例を経験できませんので、関連病院での研修を通して、自分や家族が病気になったときにかかりたいと思ってもらえるような「良医」への道を歩んで頂きたいと思っております。志ある人に来て頂ければ、必ずや後悔しない研修を提供いたします。
研究教育に関しましても、臨床に役立てることができる臨床研究を実践することができる研究者の育成に力を入れています。各研究グループに所属しながら、臨床研究の立案と実施を含めた方法論、研究の倫理、統計学、英文論文の実際の書き方、そして文部科学省の科学研究費など競争的研究費の申請書の書き方など通年で学べるようになっております。もちろん基礎研究も重要ですので、希望があれば名市大の基礎医学講座で学ぶことも可能です(名市大には多くの優れた神経系の基礎講座があります http://www.nagoya-cu.ac.jp/academics/grad-med/index.html)。その結果として、医局員の多くが、文部科学省や厚生労働省、そして日本医療研究開発機構などの多くの競争的研究費を獲得しております。また、すべての大学院生が学位を取得しています(学位取得率は100%です。)。
2018年度から開始になりました専攻医の研修プログラムをご紹介いたします。多くの方がまず名古屋市立大学病院で研修を開始することになりますので、その際の専攻医の研修をご紹介します。専攻医は入院患者の主治医となり、責任指導医であるスタッフの指導を受けながら、看護職、心理士等とチームを組み、各種精神疾患に対し、適切な治療を提供していきます。この際、疾患の発現の背景に存在する患者個人の背景を深く理解するために、患者の生活史や現病歴など包括的な情報を面接にて聴取します。もちろん、必要に応じて生物学的検査・心理検査を行います。適切な診断および評価を行ったうえで、薬物療法、精神療法、疾患教育、環境調整などの治療を柔軟に組み合わせ、患者さんにとっての最善の治療を提供していきます。あわせて医師としてのプロフェッショナリズムや高度な倫理観も身に着けていきます。加えて、他の医療機関では経験できない豊富なコンサルテーション・リエゾン精神医療、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)を学ぶために、3-6ヶ月程度、コンサルテーション・リエゾン医療に専従医として従事します。この際、希望があれば緩和ケアチームに所属して精神腫瘍医としてがん患者や難治性の症状を抱えた症例のチーム医療を経験することも可能です。
これら研修の過程でほとんどの精神疾患、治療についての基礎的な知識や技法を身につけることが可能です。中でも、精神療法の基礎となる基本的な面接技術や基本的な薬物療法および身体疾患患者の精神医学問題の評価、初期対応に関しては、全国でも屈指の教育体制を提供できていると自負しています。基幹施設における研修で、精神科を専攻する臨床医としての基礎を涵養し、自立して診療できる自信が身に付きます。また本専攻プログラムでは、3年間の研修中に精神科専門医の取得のみならず精神保健指定医の取得のための症例も経験可能です。
名市大病院はこころの医療センターとして、28床の閉鎖病棟と外来部門を有しており、これらを中心に診療活動を行っております。一般的な精神疾患に加え、大学病院の救命救急センターが3次救急を担っていることから、重症度が高く緊急性の高い症例への高度な対応技術も学べます。また、コンサルテーション・リエゾン精神医療や緩和医療に力を入れてきたこともあり、常時、名市大病院の他診療科に入院中の患者さんの5-10%を併診させて頂いております。
私自身も名市大で働かせて頂いてすでに10年以上が過ぎました。私は他学の出身ですが、もともと他大学の医師も垣根なく受け入れてくれる風土があり、診療科の垣根も低く、働きやすい名市大病院も名市大精神科も大好きです。赴任当初から強く感じてきた素晴らしい点として大きく2つのことがございます。まず1つは、「人の力」です。同門の先生方をはじめ大変素晴らしい先生方そして人柄に優れた先生方が多く、いつも強さと温かさを感じることができました。2つ目が常に「患者さんと臨床を大切にする姿勢」です。これは他の診療科も同様で、名市大は私が赴任当初にコンサルテーション・リエゾン精神医療を始めた際にも、他科の先生方も皆さん垣根を感じさせず、大変仕事がしやすく驚いたことを覚えております。
私は名市大に赴任させて頂く前に、地域の中核の総合病院や国立がんセンターで、がんの患者さんをはじめとする身体疾患患者さんのこころの領域の診療、研究に携わって参りました。中でも国立がんセンターで経験させていただいたことや学ばせて頂いた医療者や研究者のあるべき姿勢に大きな影響を受けました。国立がんセンターでは、がんの克服を目的に日本中から様々な診療科の医師や研究者が集まってきていました。一部の方はまさに全てをがんという病の克服のために捧げるような生活をされており、彼らの迫力に圧倒されたことを今でも覚えております。そしてそういった方々は妥協を許さないので、総じて医療者には大変厳しいのですが、実際の患者さんを前にした際には大変優しく、その姿勢にはとても感銘を受けました。私自身、こころより尊敬できる他科の医師、研究者に数多く出会うことができたことは財産であり、現在でも親交をあたためております(自身も驚いたのですが、私が一緒に仕事をさせていただいていた国立がんセンターの医師のおそらく50名以上が全国の大学のさまざまな講座の教授職に就いておられます)。全てを犠牲にするようなライフスタイルが正しいものとは決して思いませんが、寝食を忘れて病の克服に打ち込む医療者の存在は私にとって大変感銘を与えるものでした。また自身の診療としては、実際にがんを患われた患者さんとそのご家族を大変たくさん診せて頂きました。中でも治癒が望めない進行・終末期のがんを患われた患者さんからは、医療・医学とは何か、医療者がなすべきことは何か、人の心を支えるということはどういうことなのか等、実に多くのことを考えさせていただく機会を頂き、そして多くのことを教えられたように思います。当たり前のことではありますが、お一人お一人が個性を持ち、固有の生活史を持ち、その人生の中で病を得るという体験をされていらっしゃいますので、病の与える影響や苦悩は皆さんで異なり、病気や症状ではなく、「病を抱えた人」を診ることの大切さと難しさを実感させて頂きました。このときの経験は今でも私の臨床医としての基礎となっており、これはこころの病を持たれた患者さんにとっても例外ではないと感じております。この気持ちを忘れずお一人お一人の患者さんを大切にさせて頂きたいと思っております。
私見ですが、医療は現在考えられているよりもっと公的な色彩の強いものであるべきと感じております。ですので、社会の要請に常に耳を傾けながら、そのニーズに応えることができるような医学、医療を展開して参ります。幸い素晴らしい多くのスタッフ、また医局運営や研究を支えてくださっている秘書さんや研究助手の方々が私の傍にいてくれます。これからも、名市大精神科とその同門が一丸となって、粉骨砕身、社会のために、そして病に苦しむ方のために力を尽くしたいと思っております。どうか、みなさまの益々のご指導をよろしくお願い申し上げます。
名古屋市立大学精神医学教室では、国内で随一の緩和ケア専門施設と連携し、がん患者や心不全など致死的な身体疾患患者さんやそのご家族・ご遺族に対して、精神医学に立脚した深い精神的サポートを提供でき、かつ適切な身体的ケアだけでなくスピリチュアル・ぺイン(実存的苦痛)を含めた包括的なケアを提供できる精神腫瘍医を養成します。具体的には、私どもが基幹施設となっている日本専門医機構の精神科プログラム3年間で精神医学を学び(精神科専門医を取得できます)、その後、2年間をかけて、連携施設で緩和医学・精神腫瘍学の実践を学ぶコースです(研究論文を作成することで、日本緩和医療学会認定の緩和医療専門医を取得することもできます)。緩和ケア病棟での専門研修は国内でも最先端の緩和医療をリードしている、聖隷三方原病院、国立がん研究センター東病院、小牧市民病院、南生協病院など全国規模で行います。これら連携施設で、ニーズに応じて6か月~18か月をかけて緩和ケア病棟あるいはホスピスで、緩和ケアまたは精神腫瘍医としての研修を行い、その後は総仕上げとして、名古屋市立大学病院で緩和ケアチームの緩和ケア専従医としてのトレーニングを行います。
現在、国内には緩和ケア専門医を目指す専門医プログラムがいくつかありますが、精神科専門医と緩和医療専門医の双方を取得するダブルボードを可能とし、深いこころのケアを提供できる精神腫瘍医養成プログラムを提供しているのは名古屋市立大学のみです。名古屋市立大学は精神科部長・緩和ケアセンター長の明智が、長く国立がん研究センターで精神腫瘍学、緩和医学の研鑽を積んだのちに名古屋市立大学に赴任した経緯があり、かつ日本緩和医療学会・日本サイコオンコロジー学会・日本がんサポーティブケア学会等の要職をつとめ、全国の緩和医療や精神腫瘍学を実践している多くの施設とつながりを持っているため、オールジャパン体制で先生方のキャリア形成を支援することができます。
なお、内科専門医を基盤として緩和ケア医を目指すコースについても、開設を計画しています。
緩和医学や精神腫瘍学領域の研究を行い、多くの論文を発表している実績もありますので、将来大学院に進学し、これら領域の研究を行いたい方にも最適のプログラムと自負しています。実際、これまでにも多くの方が大学院で学び、学位を取得しています。最先端の技術、知識を培えるよう責任もって指導しておりますので学位の取得率は100%です。専門研修中の給与・待遇についても保証します。(その他、研修中は、妊娠・育児・介護・病気療養時なども全面的に支援します)。
あなたも名古屋市立大学で精神腫瘍学と緩和医学を学び、深いこころのケアを提供できる精神腫瘍医を目指しませんか。
山崎川の桜
私自身、2004年になんの縁もゆかりもない名古屋に骨を埋める気持ちで参り、そして名市大の一員に加えていただきました。嬉しいことに、私の家族も、住み心地が大変よい名古屋の地をとても気に入ってくれています。はじめて名市大の一員として名古屋に来たときの大学の近くで咲き誇る山崎川の桜が忘れられません(山崎川の桜は日本の桜100選にも選ばれている大変な名所です。)。
Medical Noteに明智龍男先生のストーリー記事が掲載されました。
明智龍男先生がMedical Noteに連載されています。ちらもご覧ください。
Medical Note連載:がんの患者さんとご家族のこころを支える「精神腫瘍学」を知っていますか?
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